『クローズド サスペンス ヘブン』五条紀夫  天国での殺人

book

俺は、間違いなく殺された。なのに、ここはどこだ? 気がついたら目の前にはリゾートビーチと西洋館。姿の見えない配達人から毎朝届く不思議な新聞によると、現世で惨殺された6人が、記憶を無くした状態で、この天国屋敷に返り咲いたらしい。俺は誰だ? なぜ、誰に殺された!? 俺たちは真相を知りたい――。館(やかた)ものクローズドサークルに新風を吹き込む「全員もう死んでる」ミステリ。

『クローズドサスペンスヘブン』 五条紀夫 | 新潮社 より引用

館に登場する人物は全員が記憶をなくしているため、外見からとったあだ名で呼びあっている。

・ヒゲオ:主人公。殺された際の記憶のみあるが、自分が誰なのかわからずひげを蓄えたイケメンであることに驚く。探偵役のように物語を進めていく。

・メイド:メイドの格好をしている女性。記憶はないが、生前働いていたからか?館内のことに詳しい。

・コック:コックの身なりをしているが、料理が下手。サポートしてくれるメイドといつも一緒にいる。

・ポーチ:ウエストポーチを常につけている。カメラで撮影することが好き。主にヒゲオと行動を共にしながら事件を解決しようとする。

・ヤクザ:館に来た時から小指が切り取られていたこと、風貌が少し強面だったことからあだ名がついた。すぐに怒るが、花が好きで優しい一面もある。

・オジョウ:ドレスを着た女性。料理が上手。

現実の世界で殺されたはずの主人公は、目が覚めると記憶を失くした状態で、天国のようなシチュエーションで生き返る。確かに殺された記憶はあるのに、新たな場所で目が覚めた主人公は自分がどのような外見なのか名前は何かも覚えていない。それなのに、たどり着いた館では自分と同じ境遇の人が6人もいるという奇妙な設定。

初めに主人公が目が覚めたシーンでは、なにかトリックがあるのか?と疑って読んでいた。殺された記憶自体が思い違いだったとか、殺すように見せかけて館で何かが起きるのかなど、色々と推理していたがまさかの本当に殺されていて、天国のような場所で意識が蘇ったという謎設定だった。そんな殺された状態から何を展開していくのか読み進めていくと、館内ではルールみたいなものが次々と見つかる。

ルール1.現実の世界での出来事が生き返った世界(これ以降、天国と示す)では毎日新聞に載って届けられる。

→この新聞の中で自分たちが遺体となって館で見つかったことが記されており、そこに登場するのも6人であったため天国に登場している人物は全員館で遺体となって発見されたとわかる。その新聞から自分たちがどこで殺されていたか、どんな状態で発見されたかなどを知るようになる。

ルール2.家の中に備わっている食べ物はいつの間にか補充され、ごみもいつの間にか消えている。欲しいものは常識の範囲内で納屋に届く。

→家の中は、誰かが来て手入れするのではなく、いつの間にか自然と整理されている。新聞を配達する人も隠れてみようとするが、姿が見当たらない。また、欲しいものは納屋を出し入れできる範囲のもので現実世界にある具体的に想像できるものや天国内にあるものを納屋へ移動させることが出来る。

ルール3.殺された時のことを思い出そうとすると、その時のように本当にその状態になって死んでしまう。しかし天国なのでまた生き返る。

→犯人を見つけようと推理をしあう中で殺された状況などを思い出していくと、斬られた場所から血が滲んで最終的に死んでしまう。少しすると生き返るが、痛みは伴う。

現実世界では絶対にありえない設定の中で生活が繰り広げられていく。読み手としては共感できるわけではないが、この物語の中でのルールをきちんと理解して入り込むことが出来ればその世界をも楽しむことが出来る。ただ、天国にいる時点で犯人を見つけたところで生き返るわけではないので、誰に殺されたのかハッキリしてモヤモヤがなくなるというそれだけの話ではある。

この物語では、自分たちの恋愛が男性同士であるために応援してもらえない、理解してもらえないといった気持ちを抱いていたことで引き起こされる。

近年、ジェンダーについては様々な形を受け入れる姿勢が社会では広がってきているが、個人で見た場合まだまだ心の底から理解しているわけではないように感じる。男女での恋愛を普通ととらえている人は大半であり、偏見を持つわけではなくとも理解しきれないことに当人たちは悩みを抱えているかもしれない。

今作で言うところの男性同士での恋愛をしていた2人は「祝福してもらいたかった」という思いを伝えている。しかし、ジェンダーへの社会の考え方が急速に変わり始め、戸惑いを隠せないのも事実。自分事として捉えるということはとても難しいと感じる。100%で理解しきれていないような感覚に陥ってしまうと、自分が差別をしている人と同じことを考えてしまっているのではないかと焦る気持ちもある。ただ、恋愛に関しては同性同士だから理解できないというのではなくて、自分たち以外の人の恋愛観は異性同士の恋愛であっても理解できないことは多い。そういって割り切れたらお互い楽になるのかもしれない。

クローズドサスペンスで、誰が犯人か候補が数名に絞られている中で犯人を見つけ出すことが読者としては面白そうと思って読み始めたけれど、非現実的な舞台すぎていい意味で振り回された。予想とかではなくて、その世界のきまりを読んで咀嚼したり、ただただ死んでいるのに南国のような天国にいるっていうアンバランスなシチュエーションが奇妙で楽しかったりした。

それにしても殺した動機としてはゲストを用意するなんてなかなか身勝手な理由に感じたけれど。。

タイトルとURLをコピーしました