あらすじ
準大手飲料メーカー・シガビオの御曹司、志賀成功(なりとし)が何者かによって別荘に監禁された。
彼は取締役就任と、意中の女性・山科早恵里との交際を目前にしていた。
半年後、絶望の中で解放された成功が会社に行くと、社内の状況は一変し、かつての彼のポストには突如現れた異母兄・実行(さねゆき)が入れ替わっていた。
そして実行は早恵里にも近付こうとしている。
「奪われたものは、奪い返さなければ」
成功は、事件の真相と自らの復権をかけて奔走するがーー。
異母兄弟がビジネスと恋で火花を散らす、一気読み必至のエンターテインメント!互換性の王子|水鈴社 より引用
登場人物
・志賀成功(なりとし):飲料メーカーの御曹司。別荘に閉じ込められて半年を監禁状態で過ごす。
・志賀実行(さねゆき):成功の腹違いの兄。成功が監禁されたことでシガビオの事業部長のポストに就く。
・志賀英雄:シガビオの社長。2人の父親。
成功の監禁
成功はゴルフのコンペで別荘に泊まった際、酔いつぶれて眠ってしまう。うっすらとした記憶の中で自分を慕う同僚に運んでもらう様子が思い出されるが、翌朝目が覚めるとそこは地下室だった。面白おかしくいじられているのだと思い目覚めたことをアピールするも、気配はなく何度呼んでも助けは来ない。周りには段ボール箱がいくつも積み重なり、中には食べ物や飲み物が無数にあった。何か月も地下室で生きていけるくらいには食料などの必要なものはあったが、一向に助けにくる様子がなく自分の存在が消えてしまったことに会社や家族は違和感を抱いていないのかと疑問も浮かぶ。食料があっても気になっている人とのデートが控えていたりいつまでもこの場所にいることになるのかと不安になったり、精神は安定しない。
半年ほどたったある日、何かしらの気配や違和感を感じ取った成功はドアが普通に開いていることに気が付く。犯人もわからずじまいだったが、半年の時間が経っただけでそれ以外何も変わらない様子に驚きながらも家に帰る。会社に少ししてから顔を出すと、事業部長だった自分のポストには異母兄である実行がいた。自分は退職扱いになっていたこともそこで知り、理由を話してもきちんと信じて元に戻してはもらえない。
復職は認められ、新しい部署は営業であった。今まで自分を慕ってくれていた人たちはほとんどが辞めたり部署移動をさせられたりしていたことにも愕然とする。まるで実行の嫌がらせのようにも思えた。気になっていた早恵里との関係はギクシャクし、営業としての仕事にも不満をもってうまくいかない。何も自分は悪いことをしていないのに…と実行への不満が募るばかりである。
監禁事件の正体
実行が自分がいいポストに就くために起こした事件の犯人なのではないかとずっと疑っていた成功。しかし、実際は自分も長くはないと悟った父がこのままでは会社を成功に任せることが出来ないと危惧して行った計画であった。憤りを覚えた成功だが、事件にはまだ裏があった。
ライバル会社である“東京ラクト”はシガビオを邪魔してやろうと横やりを入れていた。その計画によって成功も会社を追われてしまうようなことに巻き込まれてしまうはずだったので、地下に監禁されたことでその半年の間に物事は収束しており、何も知らないまま守られていた。そしてもう一つ、元々いたラクトで実行は微妙な立ち位置にいた。ラクトとしても実行の仕事ぶりを認めさせることが出来ればもう一人の実子である実行もいい環境で仕事ができるようになるのではないかという目論見もあった。
すべては父の素敵な計らいであり、お互いを意識しあって仕事をする中で競い合った兄弟は最終的にはそれぞれの場所で活躍することとなる。
初めはなんで父親なのに子どもにそんなひどいことをするのか?と疑問に思っていたけれど、裏に隠された熱い思いがあふれてきたとき、心温まった。しかしそれにしてももっといい方法はなかったのか?とも思う。半年監禁するというのはいかがなものか?現実的には難しいことだと思うけれど。
成功の仕事への想いの変化
もともと、事業部を引っ張っていた成功。しかし、それは社長の息子だったからに他なく、実力ではなかった。優しくてのんびりとした雰囲気の成功は慕われていたし周りの部下も仕事はしやすかったとは思うが仕事に対しての熱意は感じられず会社を任せることには不安があった。
実行が自分のいるはずのポストに就いていたこと・無理難題を営業の仕事の中で言われたことで「奪われたものは奪い返す」という闘争心に火が付いた成功。営業部の中にいる優秀な同僚と手を取り合ってノルマもクリアする。徐々に仕事でも結果が付いてくるようになって周りからも認められるようになる。
替えのきかない人間になるんだという意気込みがとても素晴らしい。自分のせいでこうなったわけではないと悲観的になったり投げやりになったりするのではなく、立ち向かっていくハートの強さに感銘を受ける。さらに、協力し合って仕事を進めていくうちに周りとの関係も良くなることが作品の中で描かれており学ぶことも多い。
感想
ミステリー小説はよく読むけれど、ビジネスについて大きく触れられている話をあまり読まないので新鮮だった。監禁事件だったり恋愛だったりも中に入れられていて、退屈せずに読み切ることが出来た。色々なイベントもある中で仕事については詳しく進んでいく様子が描かれていて興味深かった。
現実ではこんなに公私ともにうまくいくことばかりではないけれど、それでも仕事仲間とのトラブルや絆など色々見ることが出来て面白かった。最後も幸せになれたのでスッキリ!