あらすじ
親友に告白させたい。そして失恋させたい。大人げない告白大作戦の開幕!
三十歳を目前に婚約した千鶴は、自分への恋心を隠し続ける親友の響貴に告白させるため、秘密の計画を立てていた。願いはひとつ。彼が想いを引きずらず、前に進めるようになること。
大人のやることとは到底思えないアイデアに呆れつつも、学生時代からの共通の友人・果凛が協力してくれることになったが、〈告白大作戦〉は予想外の展開を見せ――。
ものわかりのいい私たちを揺さぶる、こじれまくった恋と友情!!
登場人物
・駒込 果凛:既婚者。千鶴と響貴のゲーム仲間。千鶴に相談されて告白作戦を実行する。
・有永 千鶴:婚約中であり、大学時代はバンドをしていた。友人である響貴が自分に好意を寄せていると感じ、婚約したことを報告する前に告白をしてもらい、そこで報告も兼ねてふりたいと思っている。
・楢原 響貴:誰にも公言していないが千鶴に想いを寄せていると思われる。誰にでも優しい。
告白大作戦
この物語の本筋として、千鶴が婚約をしたことが発端となり、大学時代から仲が良かった響貴との関係を清算したいという千鶴の気持ちが描かれている。友人として仲良く接してきていたが、響貴の千鶴に対する恋心は果凛もうすうす感じ取っていた。千鶴も自分に対してだけ響貴が柔らかくて少し甘い響きを会話の中で持たせていることに気づいてしまう。気づきながらも想いを伝えられることもないのでなんとなく宙ぶらりんな状態で友人として過ごしてきた。しかし、婚約したことで結婚式に呼ぶかどうか、結婚報告をどうしたらよいかなど懸念するべきことが出てきてしまったため、いっそのこと響貴の方から自分に告白をさせて、そこで婚約していることなどを伝えてしまおうという魂胆で果凛に相談した。果凛と2人で響きとの2人きりになれる時間を意図的に作ったり、告白をしやすいような状況を用意したり…そんな作戦を告白大作戦と名付けた。
作戦1として、大学時代に仲が良かった6人で旅行に行くことを計画する。告白をさせようと奮闘する果凛、千鶴、何も知らない響貴、そしてなぜか何も知らないはずなのに千鶴と響貴をくっつけようとしているのが見え見えな3人。後日果凛は3人に呼びつけられ、果凛も2人をくっつけようとしているのでは?と疑われる。3人は協力して2人をくっつけたいと考えていたので本当のゴールは違えど、同じような目的をもって手を組もうと考えるが、裏の意図まで伝えることにした果凛。すると、3人は婚約破棄をして響きと一緒になってほしいと言い出す。本当の千鶴の気持ちを引き出すために、誕生日祝いと称して作戦を考えるが、そこで千鶴はもう隠して響貴に言わせようと誘うのではなくて結婚する予定なのだと響貴に打ち明けることを選択した。
とにかく読み手としては、なんて身勝手な作戦なのだと紛糾した。正直、響貴が想っている気持ちは自由であり、それを押し付けているわけでもないのならば先に結婚報告をしてしまえばいいのでは?とも思ったのだけれど。30歳を目前にして青春がまた動き出したようだった。ただ、友人3人の考えに関しては結婚する予定の相手には非情かもしれないが、自分が知らない結婚相手の事よりも目の前にいる大事な友達が本気で納得した相手と幸せになってほしいと願うのはうなずける。それは結婚相手を傷つけてやろうという気持ちではなく、まっすぐに友人である千鶴にきちんと決めてほしいと思っているからこその意見だろうと思う。ただ、6人グループで大人がいてその中の2人の恋愛に(しかも付き合っているわけではないし響貴が千鶴を好きだということも知っているわけではない)口出ししすぎでは?ともとってしまった。でもこれってつまり、千鶴が響貴のことを好きそうな雰囲気を今まで出していたということなのではないか。周りも婚約している相手にそう言っているのだから何かしらの根拠はあったはず。
千鶴はずるい
旅行へ向かう車内の3列目に座っている時、車の3列目というのはどこか窮屈で2列目までの空気感とは少し違って隔絶されているような雰囲気があるという描写の際。
横の響貴も感じるだろうか。だったら嬉しいと思うだろうか。好きな相手と、二人きり。
こんなことを千鶴視点で描かれているのだが、なかなかえぐい。それは千鶴も響貴のことを好きなのか、そうではないのかで全く捉え方が変わってくる表現だなと感じる。魔性の女感が漂う文。
シンプルに、最初から最後のほうまでみていると、千鶴はずるい。その一言に尽きる。真面目な考えかもしれないが、千鶴と友達ではない自分からすると響貴に対しても婚約者に対しても不誠実だと感じてしまう。響貴のことを本気で心配してかんがえてあげているからこその作戦なのに、作戦を実行しているときの千鶴の気持ちが響貴を好きな女性の気持ちに考えられてしまうようなことが何度も出てくる。そりゃ、響貴も千鶴のこと頭から離れなくなっちゃうよな、ずるいよな。
女同士の友情は危うい
華生(かお)と千鶴の関係性が微妙でリアルだった。大学時代、バチバチなバトルをしたことがあったという華生と千鶴。それをきれいに回収していないままだったので大人になった今でも関係性に危機感が伴っていた。友達だけど、明日には嫌いになっているかもしれないという自覚がお互いにある。相手を斬ってしまわないか心配。今は好きでいられるいう危うい関係。
女性だけではないかもしれないが、いじめなどの大きな規模で考えるものではなくて、親しい間柄でい続けるために…みたいな。「今は」好きでいられるという表現はまさに感じたことのある人が多いかもしれない。相手の気に障るようなことを言ってしまった場合、一つのボタンが掛け違っていくとどんどん関係性がずれていってしまうのえ、好きで言えもらうための努力とともに相手を好きでい続けるための努力みたいなものを自然としている気がする。そればかり考えていると疲れてしまうのでそんなことばかりではないが、頭のどこかにはそんな気遣いが隠れている。そかしこれは、逆に言えば危うい関係性だからこそ今はお互いに好き同士で友人としてうまくやっていけているというレアさでより関係がキラキラして見えるメリットもある。
感想
賛否激しい内容かもしれないな~と感じた。大人になってからの青春をもう一度取り戻すという意味ではとても羨ましいというか、最終的には千鶴も結婚式を無事に迎えることが出来たし響貴だけが大人になって我慢したのかなという気もするけれど。
それにしても千鶴目線だったら、結婚も控えていて順調だし、それに加えて大作時代の友人と定期的に集まれるきっかけにもなったし、自分のことを好きだとほぼ100%で分かっている人を振り回せるという意味ではとても気持ちの良いものだったのかもしれない。実際には心苦しいのかもしれないしなんとも想像できないが、友人としてでも好きな相手からの好意となればうれしい以外の何者でもないのかもしれない。