『方舟』夕木春央  ラスト12ページの大どんでん返し!

book
Greek coastline with the famous rusty shipwreck Dimitrios in Glyfada beach near Gytheio, Gythio Laconia Peloponnese Greece.

極限状況での謎解きを楽しんだ読者に驚きの〈真相〉が襲いかかる。

友人と従兄と山奥の地下建築を訪れた柊一は、偶然出会った家族と地下建築「方舟」で夜を過ごすことになった。翌日の明け方、地震が発生し、扉が岩でふさがれ、水が流入しはじめた。
いずれ「方舟」は水没する。そんな矢先に殺人が起こった。だれか一人を犠牲にすれば脱出できる。タイムリミットまでおよそ1週間。
生贄には、その犯人がなるべきだ。――犯人以外の全員が、そう思った。

『方舟』(夕木 春央):講談社文庫|講談社BOOK倶楽部 より引用

・越野柊一:システムエンジニア。主人公。

・篠田翔太郎:柊一のいとこ。事件の探偵役を務める。

・野内さやか:ヨガ教室の受付。元サークル仲間。

・高津花:事務の仕事をしている。元サークル仲間。

・西村裕哉:アパレル系で働く。地下構築を以前見つけた本人。

・絲山隆平:ジムのインストラクター。

・絲山麻衣:幼稚園教諭。隆平の妻。

・矢崎幸太郎(父)・弘子(妻)・隼人(息子):キノコ狩りに来ている最中、道に迷ってしまう。

大学時代の友人たちと別荘に遊びに来た柊一。以前近くに面白い場所を見つけたことをがあると言う裕哉の誘いで地下構築(方舟)を探しに行ったが、地図に載っていないため到着した時にはすでに辺りは暗く、翌日までの一晩その場所で過ごすことになる。そこには道に迷ってしまったという矢崎一家と出くわす。

地下構築はマンホールのような場所から地下に降りていき、中には色々な部屋がある。その一つには拷問部屋のようなものもあり、裏社会に属する組織のアジトや怪しい宗教組織の関係している場所だったようにも思える。出入り口は地下1階と地下3階に1つずつ。地下1階には大きな岩があり、それを動かすことで入り口をふさぐ構造になっている。

翌日、柊一は大きな音で目が覚める。それは自身で岩が動き、出口を塞いだ音だった。誰かが方舟に残り、岩を動かさないといけない。さらに地下3階には地震で地盤が動いたことで浸水がどんどん始まっている。どうにかできないかと考えて動いている中、殺人が起きる。方舟にいざなった裕哉が殺され、たった一人誰を地下に残してみんなで脱出するかは「犯人を見つけてその人に岩を動かしてもらう」ということで考えが一致する。

なぜ、何もしなくても誰か一人が少なくとも死ぬという状況下で殺人事件が起きたのか。それをすることで自分が犯人だとバレた時に方舟に残されて死ぬことになるかもしれないのに。

その後も殺人は次々と起こり、犯人は3人を殺した時点で探偵役を務めていた翔太郎に突き止められてしまう。

全部で3件の殺人を犯した犯人は絲山麻衣であった。名指しをされた麻衣は抵抗することなく方舟に残って岩を動かすことを約束するが、方舟を出て一緒になることをそれとなく約束していた柊一には訴えるような視線を投げる。しかし柊一は何も伝えることなくその時が来るのだが…。

最後に近くにいる人同士で受信することが出来る電話を柊一にかけてくる麻衣。電話ではすべてをひっくり返す内容を打ち明ける。

“初めから防犯カメラの配線を逆に付け替えていた。みんなが出ようとしている出口は実は土砂崩れで塞がれている。初めから浸水している裏口からしか脱出することが出来ないとわかっていたからこそ、水中でのボンベが限られているため殺人を犯して今の状況を作り出そうとしていた。死ぬのは私ではなくてみんなの方”との告白を受ける。

麻衣は殺人事件を起こしてみんなに犯人として容疑を指摘され、一人きりでになるのを待っていた。全員で脱出することが出来ないと理解した時点ですぐにカメラの線を付け替えるなど、頭がとにかくよく切れる犯人によってまんまと騙されていた。ラスト12ページで大どんでん返しをされ、前提としての脱出口が反対であったことですべてがひっくり返される気持ちよさを味わうことが出来る。

なぜ、裕哉は標的にされてしまったのか。これに関してはカメラの配線を逆にしたことを、唯一方舟に来たことのある裕哉ならば気づいてしまうのではないかと危惧しての犯行だった。

結果、カメラがどちらの入り口を映しているのか誰にも気づかれることなく最後の時まで過ごしている。

さやかはスマホのカメラで記録を残しておくために色々な場所を写真に収めていた。その中の一つに、麻衣が初めに行ったであろう部屋の中に裕哉を絞殺した際に使ったロープが写されていた。

さやかは死ぬ直前までスマホを探していたが、見つからなかったため死んだ後にさやかの顔で顔認証を開けられてみんなにバレてしまうのを恐れてさやかの首を切断して顔認証が二度と出来ないようにした。

麻衣は隆平と結婚していながらも柊一と想いが通じ合っていた。方舟から脱出した暁には、新しい人生を歩むような意味合いで隆平との生活を捨てて柊一と一緒に生きていきたいと願っていた。

最後、犯人として方舟内に残ることになった際、柊一に“麻衣が残るなら一緒に残る”と決断してくれることをひそかに期待していた。一緒に残ると言ってくれたなら地下3階から脱出できることを教えてあげて2人で生還しようと考えていたが、そんな淡い期待もむなしく柊一は他のみんなと一緒にそのまま方舟で息絶えることとなった。

とにかく前提条件である“地下1階の岩をどうするか”といった大きな問題が覆されたことに衝撃。ラストの電話のあたりからぞわぞわっと鳥肌が立って、麻衣の狂気に震えた。そんな麻衣も柊一には愛されたいと願う様子が、こんな人間らしくないことをしておいて人間らしさが垣間見えて余計に気持ち悪くなった。

地下構築の構造としては少しイメージしづらい複雑なものだったけれど、図解もあるしそんな難しさを感じさせないくらい面白くてどんどん読み進めることが出来たのが、夕木さんは素晴らしいと感じた。これは確かに、話題になるはずだ。。

タイトルとURLをコピーしました