『龍の墓』貫井徳郎  人気ゲームを模した殺人

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Silhouette of fire breathing dragon with big wings on a dark burning fire background. Selective focus

東京都町田市郊外で身許不明の焼死体が発見された。殺人事件として捜査本部が設置され、所轄の女刑事・保田真萩は警視庁捜査一課の南条と組んで聞き込みを開始する。その後、被害者の身許が判明したものの、事件解決に繋がる糸口を摑めぬまま、都内で第二の事件が発生。すると人気VRゲーム《ドラゴンズ・グレイブ》と関連づける書き込みがネット上で散見され始め――。ネット上で囁かれる噂は本当なのか、そして犯人の狙いとは!? VR機器が日常に浸透した日本を舞台に描く、渾身の長編本格ミステリ。

・滝川:主人公。交番勤務の際、人間不信になるような出来事があり警察官を辞職。定職に就かず、VRゲームの世界に没頭している。

・安田真萩:所轄の刑事。滝川の知り合い。一家の南条とコンビを組んで殺人事件を追う。

・南条:捜査一課の刑事。抜けているのか少し掴めない性格。

舞台はVR機器が普及し、もはや日常的なものと化している未来を想起させるような世界。VRゴーグルは現代社会では重たくて、数時間つけると疲れてしまうようなもの。しかし、この世界ではゴーグル型もあるが、メガネのような軽量化もなされていて没入感は劣るけれども日常的に使うことが出来る。通話や検索などもVRを使って行い、周りにいる人には見えていない。現実世界との境目がどんどんなくなっていき、VRの世界に耽溺して現実に帰ってこられなくなる人が急増。その結果、街を歩く人が減ってしまっている。なぜならVR内でどこにでも行けるし、夏でも室内で旅行する分には涼しくて快適に海外まで行くことが出来る。旅費もかからず景色を見るならば遜色ないまでになっている。運動不足を解消したいのであれば室内でいくらでもエクササイズをすればよく、体の衰えも解消できる。

まだVRが浸透していない世の中であるが、スマホが普及した際も初めはガラケーを使っている人はまだいつつ、どんどんスマホが普通になり今やほとんどの人がスマホを使いこなしている。VRもこの先一般化し、スマホを持つ人も減っていってしまうのだろうか。それにはやはりゴーグルの軽量化は欠かせない気もする。シンプルな疑問であるが、旅行などはその場で行った気になれるというが、その時の風や気温、においなどがないと物足りなくはないのだろうか?VRで仮想空間に行っても限度があるのでは?と思ってしまっているが一般化した時にはこんな疑問も笑い飛ばしているのかもしれない。

殺人事件はゲームに模したことで、ゲーム内で行われる殺人事件の順番と同じだと錯覚させるためのトリックの一つであり、実際に動機はゲームには関係なかった。犯人の動機とは、自分の好きなアイドルをネット上で誹謗中傷し死に至らしめた人たちを探し、その中の殺しやすい人に制裁を加えていっていた。他人を容易に誹謗中傷できるのがこのネット社会であるけれど、最近ではそれも問題として捉えられている。深く考えずに匿名で他人を非難しているけれど、それによってどんな結果をもたらすのか何も考えていない人たちに知ってほしいと滝川も言っている。それに関しては激しく同意する。

しかし①アイドルを責めた人たちは、アイドルが自分たちのせいで自殺してしまったとしてもネット上で非難することが正義だと感じていた。 ②犯人の吉村も、大好きなアイドルを殺した人たちを殺すことを正義だと感じていた。 これはどちらも同じことなのではないかとあるが、本当にその通りだと思う。ファンの一人が自分事として自分で裁いてしまおうとすることはそれは正義ではない。

いつまで経っても、ネットが普及してから匿名での誹謗中傷が絶えない。連日テレビでは、芸能人が誹謗中傷されたことを訴えるなどという話題が上がり、それに対してまたコメンテーターが言及している。自分がされたらいやな気持になることは明白なのに、その人をよく知らないイチ視聴者たネット上で叩くのはいかがなものか。早く自分で気づいて無くなってほしいと切に願う。

3つの事件の2番目と3番目が逆だと思い込ませるためにゲームを模して、思い込みを利用していたトリックが面白い。そして、それに気づいたのが元警察官の理不尽なトラップに引っかかってしまった滝川でありそれがスカッとした。埼玉の事件に関しては冷房がついていたとわざわざヒントがあったのに、読み進めていて自分も事件の順番を思い込まされていた。

VRの機械がまだそこまで浸透していないし、ゴーグルもまだ重いけれど、スマホだって一気に一般化したしこの物語のような世界もそう遠くはないのかもしれないな~と感じた。

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