あらすじ
衆人環視の中、首相が爆殺された。そして犯人は俺だと報道されている。なぜだ? 何が起こっているんだ? 俺はやっていない──。首相暗殺の濡れ衣をきせられ、巨大な陰謀に包囲された青年・青柳雅春。暴力も辞さぬ追手集団からの、孤独な必死の逃走。行く手に見え隠れする謎の人物達。運命の鍵を握る古い記憶の断片とビートルズのメロディ。スリル炸裂超弩級エンタテインメント巨編。
登場人物
【青柳 雅春】首相殺人の容疑で追われる。逃亡中。元配達ドライバーでアイドルを助け、一躍有名になったこともある。
【森田 森吾】青柳の大学時代の友人。 妻子持ちで、妻の作った借金に悩んでいる。
【樋口 晴子】青柳の大学時代の友人であり、元恋人。結婚はしているが時々青柳のことを今でも気にかけている。
今までの自分に助けられる青柳
青柳雅春は、久しぶりに会った友人・森田森吾と楽しいひとときを過ごしている最後に森田から「にげろ」と突然打ち明けられる。意味も分からないまま、警察に追われる身となった青柳。逃げている最中に情報を集めるとどうやら自分が大統領殺しの犯人に仕立て上げられているらしい。
警察に本当の事情を話して保護してもらうことが第一に浮かぶが、最後の森田に言われた“だれも信用しないで逃げつづけろ”という内容の言葉が頭から離れず、必死で逃亡する。躊躇なく発砲する警察官にも不信感を募らせるが、逃亡しながら青柳は今まで出会ってきた人に助けを求める。サークルの仲間、元職場の同僚、以前助けたアイドルなど…。
ここで自分が驚いたのは、以前関わった人たちが本気で裏切らずに青柳に力を貸してくれたこと。森田も言っていたが、裏切ろうとしたけれど青柳の素敵な人柄が変わっていなかったことで自分が死んでまで青柳の力になった。晴子もその他の色々な人たちみんな、首相の殺人というとんでもない規模の事件であり、自分も大きな組織に立ち向かうことで危機にさらされる可能性があるのに助けようとする優しさと強さが見えた。
それというのも、青柳が今まで関わってきた際に愛されるような人柄だったから。ちょっとやそっとでは、警察が発表している内容を鵜吞みにして「変わってしまったんだな」と感じるのが普通。相当愛されていたとわかる。アイドルを助けたことも根拠となる一つであり、真面目過ぎてもいけないし他人を軽視していてもいけないし、過去に自分がしてきたことで様々な人が自分を好きになってくれたから、結果自分に返ってきたのだろう。
逃げることは恥ずかしいことじゃない
一生懸命逃亡し続けた結果“国”から逃げ切った青柳。何度も心折れそうになりながら、自分のために尽くしてくれた友人のことを想ってひたすら逃げた。時には犯罪者の力も借りながら逃げた。
最終的にはマンホールから川に出て、その先で以前助けたアイドルに整形外科医を紹介してもらう。逃げ切った青柳は、顔を変えることで警察の目から逃げることに成功したが、それと同時に今までの自分(顔も名前も)捨てることとなった。以前の“青柳 雅春”としては生きられなくなったけれど、新しい自分として生きていく覚悟をもって、助けてくれた人たちに身分を明かさずにお礼をして回った。
ここで大事なのは、逃げることが勝利につながったということ。あらゆる物事から逃げる人は「ださい」「はずかしい」「根性なし」などと言われることも多いけれど、時には逃げることが最善策である場合もあるということを青柳は教えてくれている。
自分がこの作品の終わり方として好きだった点は、“みんなが助けてくれて、最後には自分への容疑もなくなって楽しく生きることが出来ました。ちゃんちゃん”となっていないこと。あそこまで国が大きくかかわって事件を起こしている以上、青柳を捕まえないし殺さないという綺麗な終わり方は期待できない。整形することで、代わりの“青柳”が殺されることになってしまったけれど、それでも自分が生きていくためには必要な策だった。今までも自分牡牛なってしまったけれど、堂々ともう青柳雅春として生きていくことはできないし国に対して抗議することもできないけれど、それでももっと大切な“生”Ⅱ市が見つけたことが大切だと感じた。
感想
なんで何も悪いことをしていないのに、勝手に濡れ衣を着せられなきゃいけないの?と思ってしまったけれど顔を捨ててでも生きていることに意味があると感じた。とてもリアルな結末だった。
あんなに素敵な友人だった森田が爆発で死んでしまったことに対しては本当に無念。森田にも逃げ続けて生きていることが出来たよ!と知ってほしかった。
それにしても、最後に色々なお世話になった人のところを回って安否確認したり約束を果たしたり…粋な方法で泣かせてくれたことに伊坂さんありがとうございますでした。なんでこんなことするんだよともやもやしていたけれど、最後の感じですっきりしたのは事実!