『青くて、痛くて、脆い』住野よる  変わることは悪いのか

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single big tree in meadow at springtime

人に不用意に近づきすぎないことを信条にしていた大学一年の春、僕は秋好寿乃に出会った。周囲から浮いていて、けれど誰よりもまっすぐだった彼女。その理想と情熱にふれて、僕たちは二人で秘密結社「モアイ」をつくった。――それから三年、あのとき将来の夢を語り合った秋好はもういない。そして、僕の心には彼女がついた嘘がトゲのように刺さっていた。傷つくことの痛みと青春の残酷さを描ききった住野よるの代表作。

・田端 楓:大学生。秋好と共にモアイを創設する。

・秋好 寿乃:自由で空気が読めないところがある。信念を強く持っている。モアイの創設メンバーであり、代表者。

・董介:楓の友人。モアイに良い印象を抱いていない。

寿乃は、大学に入学してすぐ、講義中に教授に質問するという名目で「この世界に暴力はいらない」と意見表明をする。同じ講義に参加していた楓は「やばい奴」と認識して、まったく同意できなかった。他の講義でも同じように浮いていた寿乃は友達も少なく、食堂で楓を見つけて話しかけてくるようになる。楓は当初は煙たがっていたがどんどん寿乃の力強さに魅せられるようになっていく。

大学生活は、「人生の夏休み」とも言われるだけあって専門的な分野を学んでいるのでもなければ大抵がラフな気持ちで大学に通っているのではないだろうか。全員がそうとは言わないが、ここに出てくる寿乃は浮いてしまっているということの一つに周りがそのくらいの熱を持っていないことが原因と言える。大学生にもなって、周りの空気を読まずに自分の価値観を押し付けようとすることは傍目から見るとだいぶ痛い。

しかしもっと驚くべきことは、初めから同じタイプではなかった楓が一緒にモアイを設立させるようになることだ。モアイでの活動はそこまで思想の強い内容ではなかったようであるが、初めのインパクトからすると二人三脚でサークルを設立するということにもっと抵抗してもよさそうな気がする。ここで考えられることは、本気で寿乃の想いが伝わったか、あるいは楓が寿乃に特別な気持ちを抱きそうな予感があったか。自覚はしていなかった描写であるが実際のところあ2人で出かけられる環境が楽しかったり、そのあとのヒロ(寿乃)に対しての憎しみともとれるような感情の強さがそれを表している。

さらに言えば、楓が就職先が決まった後のわずかな“人生の夏休み”をモアイをつぶすことに走ることが最大の青さだ。自分の居場所を取られたことで仕返しをしてやろうとするのは大学4年生にして幼く感じる。

「変わることが出来た=寿乃 変わってしまった=楓」

変わることに対しての考え方が2人は相反している。大学当初からすると自分の意見をすぐに相手の会わせて変えるのが楓であり、自分の意見を曲げないで貫くのが寿乃というように描かれていた。それが、大学4年生になると反対の立ち位置で描かれる。楓視点で進んでいく話なので、寿乃は変わってしまったと感じながら読んでいたが、しかし楓もまた「変わってしまった」人なのではないだろうか。

目まぐるしく世界や社会が変わっていく今、変化することは本当にいいことなのか立ち止まって考える必要がある。一方で、変化を恐れていたらよりよく進化していけないということも事実。この2人は、大学の中のモアイというサークルの中の出来事だったが、自分のこととして読んでいた人も少なくないはず。何を残して、何を新しくしていくのか、じっくり考えたい。

今まで楓の青さや痛さに言及してきたので楓はやばい奴だとなってしまうかもしれないが、実はもともとの楓に共感できる人は多いと感じる。

楓のモットーは、「人に近づきすぎないこと」「人の意見を否定しないこと」である。日本人は特にこの相手に合わせる感覚を持っているような気がするが、学生時代に友人とぶつかったり、社会で周りと合わせることが難しくて浮いてしまったり、様々な環境の中で最終的に落ち着くのは楓のような考え方の人も少なくない。なぜなら楽だから。人とぶつかることは労力を要する。ならば初めから避けて通れば問題ないし、自分の意見を押し付けないようにする前提で行動していれば、相手に苛立つことも減る。

けれど、果たしてその考えは本当にいいのだろうか。

人とぶつからないかもしれないが、本当の自分はどんな人なのか、何が好きで何をすると楽しいのか、自分でもわからなくなってしまうことはないか?楓にとって、寿乃という存在に出会えたことはそういった意味では幸せだったのかもしれない。楓がこの後どのような人に変化したのかそのすべてはこの話だけで理解することは難しいが、少なくとも自分をもって自分の夢のために動く寿乃に心を動かされたことは間違いない。

題名どおり、青くて痛くて脆かった。青すぎて痛いというべきか…。

変化することへの善し悪しは誰にも決められない。どっちでもないしどっちでもある。そう思うけれど、答えが明確にないものに対して互いが反対の意見を持っているということがとても難しいなと感じた。

結構な人数のいるサークルの組織自体が企業に個人情報を流していたということは普通に考えて怖いことだと思う。就活サークルみたいな使い方をしている人も多かったし、普通のサークルの感覚とは違うのかもしれないけれど。そして、楓は楓でやりすぎなのでは?と感じた。もう少しマイルドなやり方があっても良かったのでは。あれに関しては個人的な攻撃欲が働いたといっても過言ではない。

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